● 業界専門用語「修正」(修正申告)というもの その3 ●第18話
本日は、いよいよ例の大芝居の日です。
私と平山さんは約束の10時前に税務署に入りました。
窓口は税務署2階中央にあり、ちょうどその窓口が見渡せるような所に
土地の路線価を閲覧できる場所があり、そこで私と平山さんは路線価を閲覧する
ふりをして様子を伺っていました。
平山 「富ちゃん、もうそろそろやな・・。」
私 「はい、なんかこっちが緊張しますね〜。」
平山 「ガハハ、富ちゃんはお人よしやな〜、こんなもん、わしからしたら
只の暇つぶしやんけ〜」
「お、おお!奴さん来たで!」
と、向こうの階段から山下さん夫婦がやってきてます。
奥さんはなんとなく顔が紅潮しており、気合十分って感じですが、旦那さんは
青白い顔をしてちょっと緊張しているようです。(大丈夫かなぁ〜)
そして、窓口に着きました。
山下奥さん 「すんませ〜ん!先日修正申告した山下言うもんですけど〜」
係員A 「ああ、先日の・・・なんでっか?」
(税務署員は態度の横柄な人が多い)
山下奥さん 「いや、実はね、先日修正した申告、元にもどしてほしいんですわ」
係員A 「も・元に戻す!?なに言ってはりますのん!どういうことでっか!」
山下奥さん 「どうもこうもおまっかいな!このアホ亭主、家買う言うて、不動産屋
から、収入が足らんから修正申告せいって言われて、収入も無いの
に修正申告しよりましたんや!」
「なぁ、たのんますわ、元にもどしてください!うち貧乏やから追加
税金なんて払う余裕ないんですわ!たのんます!」
係員A 「ん〜、それはむりでっせ奥さん、それ以前にこれは犯罪ですよ、
奥さん!」
山下奥さん 「え!!犯罪・・。あんたー!!!犯罪や言ってるやないの〜!
どーすんの!!
子供もおんねんでー!!」(さすが奥さん、泣きながら亭主の頭を
バンバン叩いてる)
係員A 「まーまー・・お・奥さん落ち着いて、落ち着いて・・・・な・・・な」
と、係員Aは奥さんをなだめ、奥の席に座ってる偉い人にどうやら相談してる
みたいです。そして相談の終わった係員Aは奥さんに言いました。
係員A 「奥さん、気持ちはわかるけど、やっぱり元に戻すのは無理
ですわぁ。」
山下奥さん 「・・・・・・・。」
と、そのとき黙ってその様子を伺ってた平山さんが「そろそろ出番やな・・。」と私に
ぼそっと言い残してその窓口へと向かいました。
平山 「おんやぁ?山下さんですやん!どうかしはりましたん?」
(わざとらし〜)
山下奥さん 「あ、町内会長の平山さん!こんにちわ」
(町内会長=これは打合せ通りで、税務署員に一目置かせるのが目的)
山下奥さん 「会長はん、聞いておくんなはれ〜、実は、かくかくじかじかで・・・・。」
平山 「なるほど〜、そういう事があったんかいなぁ〜、よっしゃ!」
「あんた!(係員Aに向かって)わしは藤田町の平山っちゅーもんや
けど、この人の申告、元にもどしたってんか!」
係員A 「はい・・・でも・・無理なんですよ・・・しかも虚位の申告ですし・・・・」
(あの横柄な態度から一変!)
平山 「おいっ!お前っ!人が下手にでとったら、ちょーしこいとったら
あかんど!!」
(最初から下手にでてないんですけど・・^^;)
「虚位〜っ!!なんじゃい、その キョイ(虚位)っちゅーんは!人が
アホや思て横文字並べとったらあかんどー!!おぉ〜!」
(日本語なんですけど・・^^;)
係員A 「ま・・ま・・落ち着いて下さい。」
平山 「あほか!落ち着いてられっかいぃ!おどれじゃはなしにならん!!
署長呼べ!署長!」
「藤田町の平山っ言うたら知っとるわ!はよ、署長呼べーー!!!」
(注・おどれ→お前)
んとまぁ、税務署中響き渡るような大声で平山さん咆えています。みんなの
注目の的です。
ああ、恥ずかしい・・・と思いながら、この先興味深々の私です。
でも、本当に署長が来たらどうづるんだろう?当然、平山さんのことなんて
知らないはずだし・・。
そして、係員Aは再び奥の偉い人となにやら相談のち、その偉い人と
係員Aがこちらにやってきました。
その偉い人とは、その課の課長らしく、平山さんにペコペコしながら名刺を渡して
いました。
その名刺を不信そうに眺めながら平山さんは言いました。
平山 「わしゃ、藤田町の平山っちゅーもんやけど、課長ぉ〜?わしゃ署長
よべっちゆーとんや
けどな」
課長 「はい、しかし、署長はただ今外出中でして、代わりに私がお話させ
ていただきますのでどうぞ、奥にお入りください。」
と、平山さんは課長に先導され奥の応接室へと消えていきました。
それから、10分も経たずに課長と一緒に応接室から出てきました。
平山さんの顔は満足げで、偉そうに歩いています。
平山 「ちゅー事で、山下さん、申告を元に戻す手続きをしてもらいなさい。」
「話はつきましたから。」
山下奥さん 「あ・・ありがとうございます。ほれ!あんたもお礼言っとき!」
山下 「ありがとうございます!!」
平山 「ん!では、私はこれで失敬しますんで、じゃあ、あとはよろしゅう
たのんまっさ!」
そして、わざと山下さんに聞こえるように、
「さぁ〜、前の喫茶店「カレン」でモーニングでも食べるとするかぁ〜」
と言い残して、私にウインクしながら自慢そうにやってきました。
平山 「どやっ!簡単やろ?ちょろいもんや役所っちゅーところはよ。」
「わしの、やから(注)もたいしたもんやろー」
(注・やから→強い文句を言うこと)
私 「はい、大変勉強になりました。間のとりかたとか、
たいしたもんですよ」 (ちょっとワザトラシイけど・・・。)
平山 「ほんま、授業料貰いたいくらいやで〜、富ちゃん」
私 「は・・ハイ・・では、モーニング私が奢りますので・・・」
平山 「なんや!モーニングかぃ!ネーチャンくらい連れてけや!まっ、
しゃーないな」
などと、会話をしながら税務署向かいの喫茶店「カレン」に2人で入りました。
平山 「おいっ!ねーちゃん!モーニング、ツーや!」
(ツーって英語で言わんでも^^;)
「ほんで、レーコ(アイスコーヒーの事を関西ではこう言う)に
してや!」
私 (レ・・レーコって、今時関西人でも言わんけど・・・・。)
私 「ところで平山さん、あのあと課長とどういう会話したんですか?」
平山 「んなもん(そんな事)簡単な話や!」
「ええか、役所っちゅー所は強いものには弱く、弱いものには
めっきり強いんや!わしが、藤田町の平山って名乗ったのも、
町内の権力者やと思わせるためや。でもな、駆け引きっ
ちゅーんは怒鳴るばっかりが能やない。」
「時には相手の立場っちゅーもんを理解することも大切なんや」
「まっ、そう言うことや!」
私 「そ・・それで、話の内容は??・・・・。」
平山 「ま、そのうち分かるって、経験や!経験!」
とまぁ、話ははぐらされましたけど、そうこうしているうちに山下さん夫婦が
喫茶店にやってきました。どうやら手続きは終わったようです。
山下奥さん 「先ほどはありがとうございました。」
(夫婦共々深く頭を下げている)
平山 「おんやぁ?よくここに居ると分かりましたなぁ?」
(聞こえるように言ってたくせに、よく言うなぁ、わざとらしい)
山下奥さん 「はぁ・・・ここに居るんじゃないかなぁ〜って思いまして」
(苦笑い)
平山 「よかったですな、無事済んで」
山下奥さん 「平山さんのお陰です。一部入金してたお金も返ってくるみ
たいだしなんとお礼を言っていいのか・・・・」
と言いながら、なにやら鞄から封筒を出しています。
山下奥さん 「おのぉ〜、これ、たいした物ではないのですが・・・。」
と、平山さんに渡しています。多分、お礼の現金でしょう。
平山 「いやいや、それは受け取ることはできまへん!」
(その気無いくせに!)
山下奥さん 「いや、困ります!受け取っておくんなはれ!
ほんと少ないですけどお願いします!
でないと私たちの気が・・・。」
平山 「ま、そこまで言うなら、仕方ないですな。わかりました。」
と、いとも簡単に受け取りました。そして、深々と頭を下げ喫茶店を後
にしました。
すると、平山さんは早速「どれどれ、なんぼや」と封筒を開けています。
平山 「おおっ!5万も入ってるやないかい!奴さんがんばった
のぉ〜」
「よっしゃ!富ちゃん!今日はねえちゃんとこ連れていった
るわ!」
私 「ええ!?会社に報告しないんですか!?」
平山 「あほけ!こんなんまで会社に報告するけぇ!あの人らは
わしにくれたんや」
「あぁ、おまえ会社にちんころ(ばらす)したらあかんど!!」
「まぁええわ、富ちゃんもねえちゃんとこ一緒に行くから共犯
やわな!がはは」
私 「そ・・・そんな・・共犯って・・・とほほ」
とまぁ、共犯になってしまった私ですが、こんなことで5万円もいただけ
るんだな〜と正直びっくりしました。あとで平山さんは、私にこう言いました。
「客は手のひらに乗るし、おまけにこずかいまで入ってくる。どや!
富ちゃん、魅力的な世界やろ!
そのうち富ちゃんもこの世界から抜けれんようになるで!がはは!」
つづく。
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